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アメリカで「こんまり」ブーム 疲れた米国人が日本文化に求める「ささやかな幸せと前進」

アメリカで「こんまり」ブーム 疲れた米国人が日本文化に求める「ささやかな幸せと前進」

「これは嬉し泣きよ。お別れは悲しいけど、あなたのおかげで家を楽しめるようになれた。あなたのおかげで変われた、助けてくれてありがとう」

【動画】米コメディアンに片付け術を教える近藤麻理恵

 涙する白人女性に感謝されて微笑むのは、日本出身の片づけコンサルタント、近藤麻理恵。これは、Netflixで配信された近藤の番組『KonMari ~人生がときめく片づけの魔法~』のワンシーンだ。


米人気番組「The Late Show with Stephen Colbert」にゲスト出演した近藤麻理恵 ©Getty Images

「キッチンをマリエ・コンドーする時?」

 現在、この番組はアメリカで大ヒットし、社会現象を巻き起こしている。リリースされるやいなや、CNNやWashington Postといった大手メディアが「リサイクルショップへの持ち込み増加」などのコンドー・エフェクト(近藤効果)を報道。リリース直前には70万ほどだった近藤のInstagramのフォロワー数は220万に到達した。

「ときめき」を意味する単語“spark joy”はNewYorker誌の風刺画に登場するほど普及した上、インターネットで「こんまりメソッドの実践」を意味する造語“Kondo-ing”まで流行する事態となっている。「キッチンをマリエ・コンドーする時?」と尋ねるCNNの投稿を見れば、もはやその名前自体が「片づけ」を意味する言葉として流通していることがわかる。

「今の自分にとって必要なモノ」を見極めるセラピー的番組

『KonMari』はセラピー的リアリティショーだ。近藤から片づけ方法をレクチャーされた依頼主が、掃除を通して人生の問題を解決していく。

米コメディアン・ハサン・ミナージュに片付け術を教える近藤麻理恵


 こんまりメソッドがモノに対する「ときめき」感情の精査を重要視するからこそ、番組中の掃除が「今の自分にとって必要なモノ」を見極める精神的な作業になっている。新婚カップルや未亡人など「人生の変化段階」に在る相談者たちは、近藤の教えの実践をとおして「本当に欲しいモノ」を理解して新たな人生の扉を開けていくのである。自己啓発コンテンツがポピュラーなアメリカにおいて、こうした番組が受け入れられたことは驚きではないだろう。

「モノに感謝する発想」が米国人にとっては衝撃

『KonMari』には、自己啓発要素に加えて「東洋スピリチュアリティ」と評される個性がある。なかでも注目を集めたのは、アニミズム的ともされる「モノに対して尊敬の念を抱き感謝する発想」だ。近藤は、家に対して祈りを捧げるし、捨てるシャツにすら感謝する(「自分はこういうものは好きではないと気づかせてくれたから」という理由で)。

 こうした発想はアメリカで衝撃を呼び、数々のメディアが「非西洋的な東洋の神秘主義」な番組だと分析していった。こうした反応には製作側も意識的だったようで、The Hollywood Reporterに取材されたプロデューサーは、番組の個性を「霊的であること」だと定義している。

 そもそも、2014年ごろに著作がヒットした頃から、近藤麻理恵はアメリカでそうした受容をされてきた。アメリカのAmazonにおいて、彼女の著作は「宗教&スピリチュアリティ」ジャンルの東洋部門に分類されている。

日本発の国際コンテンツは禅、“生き甲斐”、森林浴?

 番組の成功を受けて、日本の文化イメージに注目する向きも生じた。日本文化が「穏やか/精神的なもの」としてマーケティングされてきた側面があると説くNewYorkTimesの論考では、日本発の国際コンテンツとして禅、“生き甲斐”、森林浴が挙げられている。

 生き甲斐とは、そのまま「生きることの張り合い」を意味する単語だが、西洋では新鮮な概念だったようで、昨今では人気ドラマ『ゲーム・オブ・スローンズ』に出演するメイジー・ウィリアムズが脇腹に「生き甲斐」という文字のタトゥーを入れるなど、一種の哲学としてブームを起こしている。

 モノへの敬意を説く『KonMari』もまた、人生を豊かにする斬新な思考法を西洋人に教授してくれるコンテンツだ。アメリカのステレオタイプ的に言ってしまえば「西洋人に人生の真価を教えてくれる日本のソフトなマインドフルネス」といったイメージだろうか。

 『KonMari』リリース前に人気を集めた日本製番組『テラスハウス』でも、アメリカで注目を集めたのは、出演者たちの「思いやりや礼節」を感じさせるソフトでマインドフルネスなコミュニケーションだった。家に祈りを捧げるような『Konmari』はともかく、若者たちの生活模様をうつすだけの『テラスハウス』すら「マインドフルネス」と評されるとは驚きだが、アニメやゲーム由来の“ポップ”なイメージのほかに“ソフトで精神的”といった日本文化イメージが形成されつつあることは中々興味深い。

米国の「ささやかな幸せと前進」ブーム

 近藤が代表する「日本のソフトなマインドフルネス」コンテンツは、今こそアメリカで需要が高いかもしれない。ここ数年、アメリカのポップカルチャーでは「ささやかな幸せと前進」ブームが起きているためだ。

米人気番組「クィア・アイ」


 たとえば『KonMari』はリアリティ番組『クィア・アイ』やアリアナ・グランデのヒット曲『thank u,next』と比較されることが多かったのだが、これらヒット作はすべて個人が前進する方法をポジティブに提供している。

世界が不安定だからこそ「管理できる幸せ」に需要

 こうしたセラピー的な自己最適化トレンドの背景には、SNSによる個人志向の促進、さらには政治や気候問題による社会への不安増加があると見られている。言い換えれば、国家や社会への不信が増大するトランプ政権期のアメリカでは、パーソナルな領域の幸福や前進、そして安心を提供するポップカルチャーが流行しているのだ。

 前述した『テラスハウス』のヒットにしても、この流れを汲めばわかりやすいかもしれない。「悲しいニュースに溢れた2018年、この番組の善なる若者たちのストーリーは希望ののろしだった」……そんな文で締めくくられたTIMEの『テラスハウス』レビューは、アメリカの「不安な世界におけるささやかな幸せ」ブームと「日本のソフトなマインドフルネス」コンテンツの相性の良さを表しているようだ。そもそも、政治や社会に期待せず自己充足を極めんとする精神や文化は、アメリカより日本のほうが成熟しているのかもしれない。

「大きな不安には家の掃除を」

 こんまりメソッドがアメリカの「ささやかな幸せと前進」ブームにフィットすることは、近藤自身の発言を見ても歴然だろう。米メディアEsquireから「去年は多くの人にとって荒廃した年だったが2019年はどうすれば良いか」と問われた近藤は「大きな不安を感じるのなら家の掃除を勧める」と助言している。

 彼女によれば、家のスペースは自分自身がコントロールできる場所だ。人は、家の片づけを通して幸福や安心を感じる環境を自ら作ることができる。ゆえに、掃除は人生において重要なのだと……こうした語り口を聞くと、スピリチュアルや日本のイメージなど関係なく近藤が能力の高い人物だと伝わってくるし、これを読んだあなたも掃除をしたくなったのではないだろうか。

(辰巳JUNK)



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